リルヤとナツカの純白な嘘 レビュー

総評

Euphoriaや夏ノ鎖などを作られた浅生詠先生の全年齢百合ゲー
あまりにもクロックアップの強烈なゲームを作られているのでほんまに全年齢か?とも思ったのですがとても夏ノ鎖に近い直球ストレートを投げてこられて何度涙が出てきたことか、という感想です
伝えたいことはただ一つ、「過去を顧みないで前を向いて幸せになろう」という再生の物語
身体的な繋がりより精神的な繋がりが強いです、まあ全年齢だしね

天才の盲目画家であるリルヤと元気いっぱいの太陽のような夏夏(ナツカ)が依頼人の話を聞きながら「絵」を描いていく物語
勿論、リルヤは光を見ることができないためその絵を描くためにはナツカからの「光」という名の依頼人の話の掘り下げや背景状況を二人で解いていくというバディ物でもあり、謎を解決していくという大まかなストーリーではあるものの非常に紡がれる言葉一つ一つからしてきれいで繊細、まさに純文学の百合小説を読んでいるイメージ
イメージとしては百合版「月に寄り添う乙女の作法」でしょうか
白髪で聡明だけども障害を負っているリルヤの鳩、力として働くナツカは桜小路ルナと小倉朝日の関係を思い出させられましたね
後半はEuphoriaでした、まさに浅生詠
ナツカの精神的な強さとリルヤの愛のチカラがすべてを浄化してくれる再生の話、非常に好きすぎる…

シナリオ

Epi0(分類的にはEpisode1でも良いと思う)の失った初めての片思いを再生させることからもう涙涙です、
依頼人の優からは結婚式用の絵を依頼されるわけですけど

日本の古くからのジェンダー概念からすると相手が女性
だとも思わないのでうまく話をひっくり返してきたなという印象でした
線路の中に自分の初恋を置いてきたという理由でパニックを起こすのですがああ、
浅生先生
大好きなホラー的な演出だな?
と思ったら全然予想をひっくり返されましたよ…
リルヤが常識に囚われてはいけないよと頻繁に言ったり相手からのヒントもちょこちょこ出してくるので全く謎としては予想できてしまう人もいるかもしれませんが、少なくとも自分は施工をひっくり返されてぼろぼろ泣けました

Epi2の謎の死人からの依頼、もすごくテーマ性が強いストーリーでした
死というのは弔うことしかできないし前を向いて生きていかなければならないと強く思う真璃子、善乃、美彌子の関係が非常に尊いし、
強いと思った人が存外弱い人だったり弱いと思った人が存外に心が強いという話とも思えますし、
古くからよく使われているある意味古典的手法である、

双子の入れ替えと「生と死」をうまく紡がれていた
と思います
勿論、リルヤとナツカ二人の関係性もただただイチャイチャしているだけではなくて
依頼者・死者・弔って生きていく関係者の人物として立ち得て
「私達ならどうする?」とトレースしていたところも非常に良かったですし、一番ナツカの成長が見られたエピソードでもあると思います
また、ナツカの感性豊かな、まるで色彩をそのまま投影しているような言葉回しも非常に良かったですね、なぜリルヤはナツカのことを愛しているのかって言うのがとても良くわかる言葉回しなんですよね、本当にきれい
そしてその印象から派生するリルヤさんの蘊蓄もまた非常に面白い結果として結びついていて、ただの三角関係のミステリーを解いているだけでない二人の心の強さや結びつきを感じるエピソードでもありました
そして、自分は真璃子さんほど強い人間じゃないからこそ真璃子さんの強く凛々しい言葉が非常に胸に来ましたね…

Epi3はナツカとリルヤの出会いの話、そしてリルヤの囚われた過去の話
Epi2でも精神的なつながりやナツカの感受性豊かな話は非常に伝わってきていましたがそれをより深く掘り下げたのがEpi3と言っても過言ではないと思います
リルヤのことを「難題を出すかぐや姫」なんて比喩したり、一つ一つの言葉をとっても彼女の純白な心が映し出されて非常に良かった…
一人で生きていけると、生活はルーチン化しているとある意味世間を諦めていたリルヤに対して一つ一つ感嘆な言葉を交えて伝えていくナツカの心の清らかさと言葉の強さ(Webラジオを通じてという話も含めて)
感覚を失ってある意味絵師としての絶望を味わいながらも、ナツカの言葉を聞いて感性や感覚、そういったことを思い出していくほんの些細なエピソードなんですがやっぱりそれが味わい深いんですよね
そして反面、白縫とゆりの明日を見つける話でもありリルヤの再生の話
関係としては老婆百合というか言っちゃえばババァ百合なんですがその年老いて捻くれて思考が凝り固まった老婆の気持ちを変えていくというのも非常に良いものです
リルヤも目をなくし画家としての「明日」を失っていたものの、その「目」となりリルヤの翼になろうと決めるナツカの純粋な気持ちです
どんなときでも前向きで、例え「死」が近づいていたとしてもそれでも明日を諦めないナツカの心の強さがまた好きすぎるし、
白縫の歪んだ思いと言うか明日を望んでいても明日を見ることができなかった悲しみとそれを簡単に見つけてしまうゆりへの複雑怪奇な気持ちと贖罪とが入り交じっていて非常に気持ち悪くて好きですね、というかそういう気持ちはきっと若いだけだったら経験できない感性ですから

ナツカ自身も

苦しい過去と姉との関係があるにも関わらず
一切そういうところを見せない持ち前の明るさが素敵です

Epi4は自己免疫疾患のリルヤの目も治療によって治り、一生を掛けてナツカに返すと戴冠式に望む一見ハッピーな話の裏でどんどん浅生先生特有の仄暗さが陰ってきます
そう、

Epi0から続くサブキャラたちの不穏な空気
から
ナツカ自身の語られていなかった生育環境の物語に繋がります
まさにこの部分はEuphoriaやら夏ノ鎖に繋がるとてもいいドス黒さなんですよね、一見幸せであるのにもかかわらず実際は真逆という使い古されたギミックでもありますがこれを待っていたんだよと言いたくなるゾクゾク感
まさに帆刈叶と真中合歓の関係や役割がわかったときのEuphoriaを思い出しましたね
というかこれまでの積み重ねをすべてひっくり返す展開が「純白の嘘」
今まで書いてきたイラストも青と赤と緑色と言う
光の三原色にすると白に繋がる絵
そして絶望するのかと思ったら持ち前の力を使って明るさを取り戻すナツカが主人公で非常に好きすぎる、晋司くんなら間違いなく自らの命を絶ってたレベルっすよ
ナツカ自身も姉と言う楔から飛び立つことができて完全なる鳥になりましたね
最後の最後で祖母を恨めなかったイヌイに関しても嫌いになれないようにオチつけて本当にずるいなあ…と思います、白鳥の湖であり花言葉をうまく紡いでいましたねぇ…
まひるの印象は最後までEuphoriaの先生のイメージだったなあ…
ぜひまた二人の歩みをどんな形でもいいので見せてほしい、そんな百合ゲー

CG・BGM

安瀬聖のBGMも含めて最高ですね
百合ゲーなんで女の子が瞳大きめで少女漫画チックなのも非常に好きすぎる
「Colors of you」がまた好きすぎる歌詞でリルヤ→ナツカに向けられてると言う意味でも完璧ですね
後半はずっとリルヤが影の主人公していたのでね…