CARNIVAL レビュー


総評

あの頃感じなかった思い出が蘇る、という言い方は変かもしれないけども「天使のいない12月」と共に当時は鱗片しか見えなかったシナリオがきちんと見えてくるのはやっぱり面白い
いい子たちが環境のせいで狂っていくサイコ鬱シナリオではあるものの、「18禁の美少女ゲーム」ではないと挑戦できない物語かと
そして今現在だとこんな挑戦したシナリオはムリだろうねぇ…という反面、唐辺葉介ーいや、瀬戸口廉也というシナリオライターが日和るところなんか想像できないのでヒラヒラヒヒル楽しみです(まず白鳥とキラ☆キラやれよって言われそう)
この挑戦的な部分は「虹を見つけたら教えて。」に感じるものはあるし、当時じゃないと描けないってイメージは強い
当然イチャラブハッピーエンド至上主義ではあるものの、この作品のようにダイレクトな世界に対する中指立てるゲームってなかなか出ないと思うんですよね、特に今の業界って低価格のイチャラブ帯が基本だから
中にはまあ尖った刃みたいなゲームがワゴンの中に紛れてるのかもしれないけど、悲しきかな世界はそういうマイナーな声で盛り上がっていく業界でもあるんでね…
それにしても、明るく大衆受けするホームコメディを描く丸戸史明の作品である「世界で一番NGな恋」と、世界は狂ってるし幸せを求めるためにあがき続けなきゃいけないぜクソッタレをぶつけて来る瀬戸口廉也の「キラ☆キラ」、世界は崩壊するけど美しかったねああ幸福をー的なセカイモノである「そして明日の世界より――」とお前が見ているセカイは正解か?それとも不正解なのか?という「シンフォニック=レイン」(普及版)をぶつけてきた2007/11/22ってなんの日なんですか、地獄です?
メンヘラ女とサイコ男の共依存逃亡モノと言ってしまえば話は簡単なんですが、この世界って残酷なほどエンターテインメントしてるんですよね
その当時、評価されなかったものが後々評価されるというのは美術界ではよくある話ですがまあエロゲでもそういう感じでして、初めてプレイしたときはそんなに評価も高くなく、友達の妹がまっぴーらっくのアニメーションに騙され買おうよ!!ね!!って言ってきたキッカケです
今考えると姉か親に頼めや(その姉と自分が友人同士)
10年前ぐらいからそういった尖った刃みたいなシナリオが評価されつつ、CARNIVALってゲームと小説は高騰したわけですが、一応ゲーム会社がDL版を販売しているのでPK版買わなくてもそこそこのお値段でプレイでき比較的短くまとまっていて且つ面白いシナリオであるので一度はプレイして欲しい作品ではありますね
「天いな」とか好きな人は絶対ハマるやつなので…
いやあ、まさか一番嫌いだった先輩が一番好きになったかもしれん…
個人的に「CARNIVAL」って言うか「謝肉祭」ですよね、祭りや肯定的・幸福的な意味の祭りを意図しているとは思えないんだよな…いや逆をとって幸福探しのためのカーニバルなのか、そのぐらいのタイトルは付けそうな気がする
批評空間で狂人たちのCarnivalと書かれていてはーなるほどねぇ…みたいな気持ちにも
OP詐欺は狙ってやってると思う、そういうゲームです
一回短い名作ゲームをやると自分の中でエロゲテンポが上がるのでコツコツバフとして積みたいですね
fullswing.hatenablog.jp
若かれし頃のレビューは青いな…

シナリオ

"CARNIVAL"

うまい叙述トリック使いだと思います、だって序盤は先輩がいなくなったり泉ちゃんを逃したりしてる理紗を否が応でも疑いたくなりますもん
そして三沢先輩に対してもだ、どう見たって理紗に乱暴してるようにしか見えないんですよ
BADなんですが理紗母の言う「あなたが理紗を助けてあげて」というのも、学/武は理紗にとっての本当の支えであり、救いなんですよね、彼女にとっては
反面、殺人鬼としてリアルで追い詰められていく学視点からすると理紗・泉に対しては信じきれるか/信じきれないかがポイント
当初は

この殺人事件の本当の犯人を見つけて行くスカッとしたゲーム
だと思っていた頃のあまちゃんっぷりが大変お子様らしくて好き
どんどん疑心暗鬼に落ち入れていくトリックはまさにプレイヤーを圧巻させると言っても良い
個人的には死ぬほど嫌いだった志村先輩がめちゃくちゃ小物で好きですね、いいですよあの自己のプライドしか考えてなくて他人を傷つけることに対して鈍感というかそういう女
そうは言っても
先輩の唯一の支えである真理ちゃんに対しての庇い方やら罪を重ねないでって気持ちの変遷とか
すっげぇ上手いですね
別に先輩にとっては学なんか路傍の石なんですよ、居ても居なくてもいじめをしようがしまいがどうでもいい存在、本人も言ってましたが虫けら
ただ理紗という完璧超人が居て(多分心を寄せてた)三沢が靡いたから
出る杭は打たれる、ただ張本人である理紗に対してそれを行うと学園カーストとしての地位が揺らいでしまう
理由なんてそんなもんです、自分の生活の邪魔な存在であったから潰した、それだけ
ういう意味だと当時感じなかった先輩への嫌悪感が一周回って昇華されたというか、面白い気持ちの変化を感じていて自分でも驚いて楽しいですね
武と言う存在も学を追い詰める要因として面白いです、だってどう見ても
理紗と共謀してる隠れた男
にしか見えないですからね

結局のところ、コミュニケーションって物理的や感覚的な刺激だよね
言語による対話って非常に難しいよね

というほんの一欠片のやりとりなんですがこういうのが非常にビビっと来ると言うか
理紗は学を信じているからどんな状態でも受け入れようとしているし、学は

泉から死なないでね
と言われてもうザッピング入ってる状態で精神が酩酊している
それはきっと殺人後(強姦後)の極限状態がずっと続いていたからのストレス反応なのかもしれないし、元々幼少期から行われていた
精神的・心理的虐待
に寄るものなのかもしれない
それはわからないんですけど、もう学は崩壊寸前なわけです
如何にウィットな表現を使っていたとしても、というかウィットな表現が出てくるぐらいもう頭イってるとも言える
ただそれでも回想に出てくる母親に対しての拠り所というかもうインプリンティングな訳です
いくら暴力振るわれても親は親、子は子、選べないし、信じてる
信じてる断片が学であるとしたらそれを拒絶し
自己をなんとか守ろうと頑張ってるのが武なんですけど

あれだけの凄惨ないじめや暴力、クラス内カーストでの
ストレス下において自死を選ばなかったという部分は武と言う
断片のお陰なんでしょう、まあ性欲を満たした後のBAD下だとそういう行動も見れるしそんなに強い人間ではないのはよく分かる
7年後の小説では自死を選びますし
選択肢がどんどん追い詰められていくところも大変良いです、もう迷路の中に囚われているし狂ったシーケンスは戻らない
そして理紗が全部、学の罪を受け入れてくれるやばい女っぷりがまた好き、

君が新しく来た世界はちょっと広すぎるような気がするよ

このエンドは解釈的に

遠いサイレンの音やら環境から考えると発狂死
かなともとれるんで小説版はまあ今考えると良く
学は7年生き延びたよな
と逆に感心
対する理紗も強くなって
父親からの性的虐待の告発に
動くと、お互いを全肯定しあいながら共依存しているやばいカップルが成長した証ともとれますけど
however you are not-alone.
二人は弱かったけども、何もかも学の全てを受け入れて逃亡する理紗と理紗と武の何もかも全てを受け入れてクソッタレな世界から逃げようとするようになれたのは強くなったのかもしれないですね、まあ小説の終わり方は納得だわ…

泉ルート

分岐すると泉ルート
これが昔っから好きでして、依存に近く且つ学(だよね多分)の方に好意を向けている女の子、というのがとてもフラットで良きですね
はじめはええ~?って思ったんですがこれまたうまくできていて理紗とは違った肯定と愛を向けてくれる泉が非常に好き
そして、泉も理紗とは違ったユニークかつウィットな言語の持ち主であってやり取りが非常に楽しい
果のない逃亡劇を泉と行くわけですがまあまあこれも刹那的な生き方であって非常に長続きしねぇな感がとても良いんですよね
まあ理紗や学の世界の存在や問題を解決しないのでなんにも話はどうにもこうにもならんのですけど
結局、

泉と果のない逃亡劇を選ぶか理紗と抱えてるものをすべて背負って逃亡するかの違い
ではあるんですよね

SCENARIO2" Monte-Cristo"

ここからは学ではなく武の視点から語られるシナリオ
学視点から母親を見れば優しい母さんの一面を垣間見ることができますが実際はそんな甘っちょろい話ではなく、自己防衛の手段として生まれた存在である武からの視点をザッピングしながら追いかけます
勿論、自己防衛の手段であるからこそ学が得ていない暴力やらドメスティック行為に手を染めるわけですけど、賢い理紗は全てに”気づいて”しまう訳で
環境的に旦那に捨てられ、頼る人も居ないシンママが追い詰められて、「いい子」を演じていた学の防衛手段としてパッと武に切り替わり粗暴なことしてたらまあ崩壊するのも時間の問題よねとは思うわけで
ただ、本当に理紗と学(武)の関係については心いよいと思っていたんでしょう、あの「夏祭り」に誘うCGはいつ見ても泣けます
武は

理紗のことを全く信じてないのも面白いですね
学の方は理紗に対する共依存とかそういうものを感じているし、理紗は
突き落としと多重人格
の事については自分も学も守り通すつもりで嘘をついているのにも関わらず武の精神下では暴力=正義である為、結局誰のことも信用していない世界というのがまた好き
これはCV当ててほしかったなあ
疑心暗鬼感を持たせるために動いていたのは全部武って言うのもまた面白いですね、武は学を守るために理紗へ罪をかぶせようと動いて、理紗は全てを受け入れる覚悟をしているけれど武の幼少期経験から他人は信用ならないと動くわけで
まあ母親の突き落とし事件の肯定をしている訳だものなあ…理紗は
一方的な感覚として学の方からはもうシャットダウンしているにも関わらず武は共有しているわけだから美味しいところは全部持って行けて自分は狂わずいれる、というか(存在自体が狂ってるとも言えますけど)
且ついじめの原因になった志村先輩と理紗の関係から見ても不条理な暴力を受け続けるのは学であって理紗が受けてるわけではないので自己防衛の手段と言われたらまあそうだし、理紗側からしても
三沢先輩殺人事件現場を見ている
ので武側からすれば二重に迷惑な存在ではあるわけですから

SCENARIO3"Traumerei"

3シナリオ目のザッピングは理紗
ほぼ学=武のやったことはSenario2で語られているので今度は理紗の罪を追っていくというやつ
理紗側は一見、別にクソ親でもクソ環境でも無いんですが

幼少期から父親から性的な虐待を受けます
これ結構深くて笑えないんですよね、実際の事件でもある訳ですし
母親が告発すれば良いんじゃねえかって当時思ったんですけど、現実はそんなこともなくDV下かマインドコントロール下に置かれるので、結局母親側からは動くの厳しいと思うんですよね…
理紗が弟いるとは知っていましたけど妹も居たんですねぇーって言う驚きと
家族には役割があって、理紗が一番の理解者になることが
家族の平和のためという風に教育されていたらああもう駄目だとしか言いようがない
幼い理紗と幼い学の関係が本当に些細な幸せであるものの、現実がきつい分非常にいいシーンだなと思いました
万華鏡のシーンは駄目だ…
光の位置が変われば美しく見える
って言う意味なのかなとも取れましたね、単なる子供同士のやりとりで終わらないこの感じ
どんな環境下であっても前向きに母さんのことは好きだと言う学と一方的に愛を確かめる行為をされる理紗間の苦悩がまた辛い
事件を起こしてからの学と理紗の関係もですけど、思春期を超えた学と理紗の関係も辛いものがある、というか後者に限ってはしょうがない問題でも有り難しいなあと思うのです
そして、一生罪から逃げないと言い切る学と神は許して欲しい心さえあれば全てを受け入れてくれるという宗教の教え
生憎、宗教関係の勉強はしていないし宗教系の学校でも無かったので相変わらずここの理解には乏しくなりがちだなあと言うのがまず一般的な感想だしまあ詳しい人もいるとは思えないので疎遠になる理紗と学の関係を書きたかったんだろうなとは思うところ
泉の刹那的な行動に出やすいところとかも好きですし、なんとなく分かるし
事件後の理紗と学と武の生活も語られるんですが、しんどいんですよね…
後、志村先輩やっぱ嫌いになれねえわ、悪女たる悪女のくせに妹の為に逃してくれという人間味が好き
悪いのは誰でもないんですけど、人間は一人で生きていけないし、幸福な環境って人それぞれ定義が違うもので走り続けないといけないしんどさはあるよ、頑張れって歪なエールじゃないかなって
思いました
ショタ川流はちょっと厳しい部分はあったんですけどやっぱ
突き落として狂ってく
シーンだとか学と武の演技の違いとか流石だなあとしか言いようのない演技力であったし、短い中で良く楽しめるシナリオを書いてくれてありがてぇ…って気持ちに
長くは居れないよってやりとりをしていたからこその多分小説なんだろうと思います、弟にもすげえ性癖植え付けてるんだけどな理紗…
またあとがきがすごいので読んで欲しいやつ